日本”式”経営の逆襲

日本”式”経営の逆襲
著者 岩尾俊兵
出版社 日本経済新聞出版
発売日 2021年 06月 19日(土)

推薦者:安藤研一

安藤研一

推薦者・安藤研一について

調剤薬局チェーンをベースに、クリニックの開業支援や医療モール開発などを手がける企業で人事の仕事をしております。
少しでも、皆様の気づきにつながれば幸いです。

おすすめポイント

この本は、いわゆる終身雇用などの慣行を含む日本的経営と区別するため、「日本”式”経営」というタイトルとなっており、「経営技術」という言葉を用いて経営学と区別しています。
以下に超要約します。

  • 経営に関する日本悲観論が蔓延しているが、そんなに恐れることはない
  • 「アジャイル」「リーン経営」「両利きの経営」「制約理論」…その他、GAFAにおいても、その経営は日本の経営技術を源流とするものが多い。
  • 日本人は、もっと自信をもっていい。
  • とはいえ、慢心は禁物。適度の危機感を持ち、何が日本に足りないか反省することは必要。
  • 日本に足りなくて、アメリカが長けているのは「コンセプト化」と「論理モデル化」
  • 今こそ、日本が世界に誇ることができる経営技術を、実践一辺倒に終わらせず、コンセプト化し、イノベーションにつなげるチャンスである。

終盤は、著者が独自の視点で、カイゼン・イノベーションを初めとする提言をしています。

今の日本には、GAFAがすごいだの、だから日本企業はダメだとか、やたら日本人の自信を喪失させる本や記事であふれています。
という私も、MacBookを使い、iPhoneでFacebookグループに投稿したり、Amazonでポチッと本を買ったり…気がつくと日常の生活はまさにGAFAがベースです。

この本を手にして思い出したのは、自分自身、製造業に身を置いていた約15年間での経験。海外の工場にも頻繁に行く機会があり、改善活動が「KAIZEN」として定着していたことに驚きました。また、工場の至るところに「2S」(整理・整頓)「5S」(整理・整頓・清掃・清潔・躾)と日本語がローマ字で書かれたポスター類が掲げられていました。日本のものづくりの技術や土台は海外にも浸透しているんです。

では、「実はすごい日本の経営技術」とは何か、以下に引用を交えて紹介します。

・アメリカにおいてトヨタの生産方式は「リーン生産方式」と名付けられた。名付け親はグーグルの関連会社であるウェイモ社のCEOジョン・クラフチック氏である。
リーン生産方式は、その後書籍のベストセラーによって世界中に広まり、リーン・スタートアップにつながるのである。

・世界には製造業のノーベル賞といわれる賞がふたつあるが、そのひとつが世界的に有名である新郷重夫氏の新郷賞(もうひとつはデミング賞)。新郷氏は、生産現場でよく使われる作業ミス防止の工夫にたいして「ポカヨケ」という名前をつけたことでも知られる。「ポカヨケ」も海外でそのまま定着している。もともとバカよけと呼ばれたが、女性作業者から、「私達はそんなにばかですか?」と言われたことから、改名した。

・こうした経営技術の中でも、たとえば青山学院大学の故・田口玄一教授が創始したタグチメソッドという品質改善の知識体系などは、世界的にも「タグチメソッド」で通用し、現在では品質工学という学問分野を作りだしているほどである。
(PAGのプロフェッショナルありがとうの会代表の高木さんの特別セミナーで、「品質工学って英語でなんて言うの?」と聞かれて答えられなかったことを思い出しました。その時「タグチメソッド」を初めて知りました。)

・Amazon創業者のジェフ・ベゾスはカイゼンの信捧者であることは有名だ。株主総会においても、何度も「Kaizen」という言葉を使って、株主に対してプレゼンをおこなっている。アマゾンが取り組んできた努力はカイゼンという言葉で表現できること、今後はそれを地球規模に適用して環境問題に焦点をあてたカイゼンをおこないたいと述べている。実際に、アマゾン米国本社にはKaizenプログラムという制度が現在でも設けられている。そこでは、QC七つ道具やQCストーリーなどカイゼンに利用できる手法が教育される。

他にも、世界的ベストセラー「ザ・ゴール」はトヨタ生産方式のコンセプト化であること、デンソーが初めに作ったQRコード、日本のセブンイレブンの「Tanpin Kanri」など…色々と例があげられています。

そんな優秀な経営技術を持っていた日本なのに、「コンセプト化」で負けたと著者は言っています。それはどういうことなのか?2箇所だけ引用します。

・コンセプト化では、より抽象的なレベルでとらえ直し、論理モデルに変換すること。
これにより、ある知識が、図表・数式・他言語などでも表現可能になり、誰にでも理解できるコンセプトとなるということ。

・日本企業は、阿吽の呼吸や根回しなど、文脈に依存するコミュニケーションを得意としてきた。これは日本企業の強みであると同時に、抽象化・論理モデル化の組織能力を低下させた可能性がある。

米国駐在の経験からも、言われてみれば、コンセプト化と論理モデル化が弱いというのは納得できました。また、誰にでもわかる再現性の高い言語化ができることが、これからのヒントになると思います。

読後感

これからの世代は、もしかすると、こういった日本企業が培ってきた本来の強み、世界に誇れる経営技術を知らないで、単なる海外に感化されて育つかもしれないと、少し不安を感じました。
自己肯定感という言葉を使うなら、自分たちの住んでいる日本という国に対する正しい肯定感を持つことが必要と感じ、もっと若い世代にも知ってもらいたいという気持ちが強くなりました。取り急ぎ息子から始めます(笑)。

この本の内容そのものを理解するだけに留まらず、経営技術をはじめとする日本について学び直したいと思いました。

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